事件から1日休んで仕事に戻った。

犯人が捕まったとは言え、きっと大騒ぎになっているだろうと思っていたけれど、案外そうでもなくて逆に驚いた。
救命部長が箝口令を敷いたらしいと聞かされ、さすがと納得した。

それに対して、
「人騒がせな奴だなあ。大体、病院の備品なんてこれ見よがしに持ってるからこんなことになるんだよ」
うちの部長は文句を言ってる。

「昨日休んだ分、今日は働いてくださいよ」
「はい」
できるだけ表情を崩さず、返事だけした。

この部長、なんとかならないのかしら。
小児科医としては優秀らしいけれど、人間としては・・・最悪。
特に私には敵対心丸出しで、救命部長とは大違い。
部長が刺されれば良かったのに。

「紅羽、顔が怖いわよ」
夏美の呟き。
その通り、私怒ってますから。

「子供が泣くわ」
フン。
怒りたくもなるわよ。
今だって、昨日休んだペナルティーって口実で週末の勤務を入れようとしている。

「そんな顔するから、余計に言われるのよ」
「分ってます」
「じゃあ、直しなさい」
うっ。
それができないから困っているんじゃない。

ブー、ブー、ブー。

「はい。NICUです。はい。はい。わかりました、向かいます」
どうやら、ドクターカーの出動要請。

「行きます」
この場から逃出したくて、手を上げた。

「山形先生はいい。ケガしてたんじゃあ仕事にならん」
「大丈夫です。行けます」
抗議する私。
しかし、
「山形先生は待機。山田先生向かってください」
先輩ドクターが行くことになった。

本当に嫌な部長。
きっと春の歓迎会で、手を握ろうとしたところを思いっきり拒否して『セクハラで訴えますよ』なんて言ったからだろうな。
お酒の席なんだからって、その後みんなにも注意されたし。
はーぁ、本当に困ったものね。


40分後。
運ばれてきたのは、小さいけれど元気な赤ちゃん。
てきぱきと処置し、NICUに収容した。

「山形先生担当ね」
遠くの方で部長が言ってる。
「はい」
喜んで。

NICUは嫌いじゃない。
もちろん命に関わる患者が多いから難しい側面もあるけれど、赤ちゃんは基本しゃべらないから。
顔色を気にすることもなく、治療に専念できる。

「山形先生、今週の日曜の病棟待機をお願いします」
まるで決定事項のように、部長は言うけれど、
「あの、その日は都合が・・・」
元々、部長が待機のはずだったじゃない。

「私も急な出張で不在になりますので、なんとかお願いします」
いや、だから・・・

「山形先生、都合悪かったら僕が変わりましょうか?」
と、さっき私の代わりにドクターカーに乗ってくれた山田先生。

「いいです。都合をつけます」
これ以上みんなに迷惑はかけられない。

クソッ。
部長の奴。
都合が悪いって言っていたのに・・・
今度の日曜は亡くなった父さんの命日だから、久しぶりにお墓参りに行こうと思ったのに。
絶対部長の嫌がらせよ。

その日1日、不機嫌を顔に出していた私。
幸い、今日はNICUの当番だったため無愛想を注意されることもなかった。