私は、代わってもらい恐る恐る受話器に耳を当てる。
声を聞くのが……怖い。

「はい……代わりました」

『お前……どういうことだ?』

いつもより低い低音ボイスですぐに分かるぐらいに
怒っていた。それは、もう不機嫌そうに……。
これは、どちらに対して怒っているのだろうか?
どちらにしろ怖いが。

「お、お久しぶりです……先生」

『久しぶりじゃねぇーよ!?
電話しても出ないし、こっちに
勝手に代わりの奴を寄越しやがって。
いや、それよりもあの報道はなんだ?
俳優の神野飛鳥って奴と交際しているって
どういうことなんだよ!?
睦月が“あれ、お姉ちゃんだ”と言うから観たら
あれ間違いなくお前だよな?』

うっ……あれで私だとすぐに気づいた睦月君も凄いが
それよりも先生に気づかれてしまった。どうしよう。
私だってどうしてこうなったのか分からないのに。

「あ、あれは、誤解でして……」

『お前……仕事より恋に怠けてるのか?
お前が誰と交際するのは、勝手だが……そんな奴が
担当なのは、いい迷惑だ!』

ガーン!! 先生の言葉にショックを受けた。
確かに、こんなことになったのは自分のミスでもある。
それに対しては、怒られても仕方がない。
でも……担当なのは、迷惑だなんて
先生の口から言ってほしくなかった。

『……おい、聞いているのか?』

私は、ショックのあまり電話を切ってしまった。
涙が溢れて止まらない。
もう先生の担当を外されてしまうのだろうか?
そんなの嫌だ……せめて誤解だけでも解きたい。

先生に神野飛鳥と付き合っているなんて思われたくない。
私は、涙を拭うと編集長に
「これから蓮見先生のところに行ってきます。
謝罪をしたいので」と言って部署を飛び出した。