「俺らが原因だと分かっているけど
涼花ちゃんは、笑った顔がいいよ?
せっかくの可愛い顔をしているのだからさ」
浜野さんは、ニコニコしながらそう言ってきた。
するといつの間にかそばに来ていた先生に
浜野さんは、軽く小突かれていた。
「お前がもともとの原因なのに何、口説いているんだ!?
それよりもそろそろ彼女との喧嘩の理由を話せ。
あやふやなまま居座る気かよ?」
「アハハッ…バレちゃった?」
苦笑いする浜野さん。そういえば、彼女さんと
喧嘩してるのだったわよね。どうしてだろう?
自分の事ばかり考えていてすっかり忘れていた。
「大した理由ではないのだけどね。
ほら、俺1年ぐらい海外で研修を受けていたんだけど
彼女とは、その間ずっと遠距離でさ。
それでやっと日本に戻って就職先が決まったと
思ったら結婚したいと言い出したんだよ!
でも俺は、医者に成り立ての新人だし
正直結婚どころではなくさ。それで喧嘩になっちゃって
家を追い出されちゃった」
「えへへじゃねーよ!?
それなら、それで彼女に分かってもらえるように
説得しろよ。大体、医者に成り立ての男に
結婚しろと言うとか随分と勝手な話だな。そいつ……」
えへへと笑う浜野さんに先生は、呆れた表情で
ため息を吐いていた。
しかし私は、彼女の気持ちが何となく分かると思った。
「それって勝手な話なのでしょうか?」
「あっ?」
眉を寄せる先生にビクッと震えて上がった。
「だ、だって…ずっと遠距離だったんですよ?
1年だったとしても彼女さん寂しかったんだと思います。
待つのは、理解してるつもりでも
不安になる時もあります。だから形だけでも
証明したかったのではないでしょうか?
ちゃんと愛されているって実感したくて」
私は、負けじと伝えた。
自分の立場なら不安だろう。才能のある彼なら
なおさら新しい女性が現れたらどうしよう。
自分は、彼とずっとやっていけるのだろうか?
考えれば、考えるほどきりがない。
だから、せめて妻として彼のそばに居たいと思うのは、
いけないことなのだろうか?