「さて、挨拶も終わった事だし帰るか」
「ちょ…ちょっと、待って下さい!?先生……」
先生は、そう言うと背を向けて歩き出してしまう。
私は、慌てて追いかけた。
仕方がなく先生の少し後ろを着いて行く。
先生は、息子の睦月君と手を繋ぎさっさと歩いていく。
何も話す事もせずに無言だ。
普通幼稚園の事とか聞いたりしない?
それにあの子も会話の1つもしないし……。
何だか私の方が気まずい。
結局一言も話さずに自宅マンションに着いてしまった。
すると先生が私の方を向いた。
「じゃあ俺は、仕事に戻るから後の事は頼む。
睦月に持って来たケーキでも食べさせてやれ」
「あ、はい。」
慌てて返事をすると先生は、さっさと自分の仕事部屋に
入ってしまった。えっ?それだけ?
私に後を頼みさっさと部屋に入るし息子の睦月君と
ろくな会話も無い。
この親子は、一体何だろうか?
いや、それより私…どうしたらいいの?
慌ててスケジュール帳に書いてあるメモを再確認する。
そういえば、子守りも仕事の内に入るのだったわ!?
だとするとどうしたらいいの?
私は、オロオロしていると睦月君は、お行儀よく
靴を揃えると部屋に入って行く。
私も慌てて靴を脱ぎついて行くと自分の部屋らしい。
子供らしいキャラクター物や男の子用の
おもちゃやベッドが置いてあった。
可愛い部屋……。
そうすると壁掛けにカバンと帽子を置くと
着ていた制服の上着を脱ぎ壁にかける。
まだ小さいのに自分でやれるなんて…凄い。
「睦月君。自分でやれるんだねぇ~凄いね」
笑顔で話しかけてみた。
睦月君は、ジッと私を見た後、何も無かったかのように
部屋から出て行ってしまった。
あれ?もしかして無視されたのかしら?
えっ……睦月君に嫌われちゃった?
でも、嫌われるような事は……まだしてないはず
身に覚えがない無視に意味が分からずに首を傾げた。
しかし追いかけないと……。
慌てて睦月君の後を追った。
そうしたら脱衣場にある洗面台で手を洗い
うがいをしていた。
背が足りないので、椅子の上に立っていた。
さっきもそうだったけど言われる前にやるし
本当に行儀のいい子だわ。
先生が教えたのだろうか?
感心をしているとハンカチで手を拭くと椅子からおりて
私の前を通り過ぎて行く。