お酒を飲みながら執筆していたのね。
私は、座るとフッと資料の下に敷いてある写真を
見つけてしまう。
これって……さっき見ていた写真よね?

いけないと思いつつその写真を見てしまう。
奥さんの写真だった。あ、やっぱり。
まだ奥さんのことを愛しているんだ。
先生の気持ちを理解すると余計に胸が苦しくなった。

「こら。勝手に人のを見ているんじゃねぇ!?」

いつの間にか先生が来ていた。

「あ、すみません。あの……この人は、
先生の奥さんですよね?亡くなられた」

「……まぁな」

そう言うと隣のソファーに座る先生。
ワインをグラスに注ぐと私に差し出してきた。
お礼を言うとグラスに口をつける。
美味しい……。

よく考えたらこんなに落ち着いて先生と
2人きりなのは、初めてかも…。
来てもすぐに睦月君を幼稚園のお迎えに
行っていたし。その後は、睦月君も一緒だ。
気まずいし何か話題を……。

「奥さん素敵な方ですね。綺麗で優しそうで」

しかし、よりにもよって奥さんの話題を出してしまった。
自分でも驚いてしまう。でも気になって……。
そうしたら先生は、懐かしむようにグラスに口をつけた。

「当たり前だ。俺が惚れた女だからな」

意外にもアッサリと認めた。
『俺が惚れた女』か……。
先生が、そう言わせる女性なんだと分かると
さらに胸が締め付けられそうになる。

「どんな方なんですか……?」

わざわざ自分から傷つく事を聞くなんて馬鹿だ。
でも、気になった。先生の選んだ人だから
きっと素敵な人に違いない。

「妻の沙織は、大学時代の同級生だ」