えっ……!?
まさかの質問に驚いてしまった。
向いている人と言えば……河合先輩だ。
私は、河合先輩に色々教えてもらった。
「やっぱり河合先輩みたいな人でしょうか?
とにかく編集者として優秀で優しくて頼りになります」
「確かに河合さんは、編集者としても優秀だ。
俺がデビューした頃から世話になっているしな。
だが、あの人の向いているのは、そんな事じゃねぇ」
「……えっ?」
「優秀な編集者は、他の出版社にもたくさんいる。
だが、俺が書いた作品を信頼して
任せたいと思えるのは、あの人だけだ」
先生は、そう言ってきた。どうして?
先生は、そんなに河合先輩を信頼しているのだろう。
「いくら編集者として優秀でもそこに
信頼関係が無いと意味がない。
俺の作品を要求するくせに締め切りや内容に
ケチつける奴は、居たがそいつら社内では
優秀だと言われていた。
だが俺は、そんな奴に作品を預けたいと
思わない。何故だか分かるか?
その場限りの関係の奴に大切な作品を預けれないからだ」
「それに比べて河合さんは、編集者の仕事より
常に家庭の手助けを優先にしてくれた。
赤ん坊だったコイツの世話を大分助けて
もらったしな。だから仕事もやりやすかったし
信頼も出来た」
睦月君の頭を撫でながら話す先生。
河合先輩と先生には、そんな信頼関係があったんだ。
そういえば、先輩も似ている事を言っていたわ。
「くだらん事を悩む前に自分の出来る範囲で
頑張ればいい。仕事ではなく相手のために動ける奴は、
自然と距離も縮まるんじゃねぇーのか?」
ぶっきらぼうながらもアドバイスをしてくれた。
その言葉には、厳しさの中に優しさがあるような気がした。
その後は、夕食も呼ばれてしまい申し訳ないまま
藤崎家を後にした。夜の道を歩きながら
先生のアドバイスを思い出していた。
仕事のためではなく相手のためにか。
私は、先生達ともっと距離が縮められるのだろうか?
そうしたら自分も変われるかな?
変われるなら変わりたい…。
このままだとダメなのは、自分でも十分に
理解しているつもりだ。
星空を見ながら、ぼんやりとそんな事を考えていると
突然電話が鳴り出した。
静かな夜道だったからビクッと震え上がった。
カバンからスマホを取り出し見てみると
親友の木村梨子だった。