私ならショックで耐えられないだろう。
考えただけでも辛くなるからしかし沙織さんは、
変わらずにニコッと微笑んだ。

「うーん。確かに辛くないと言ったら
嘘になるかしらね。でも私は、真夜と睦月の
笑顔を守りたい。真夜……あの人は、苦しみを1人で
背負い込む所があるから支えてあげられる人が必要なのよ。
だけど、その私は…もう死んでいる。
だったら、私の役割を誰かに受け継いで欲しい。
あの人の笑顔を守りたいから」

沙織さんは、そう言っていた。
この人は、なんて優しい人なのだろう。
自分の事より先生の気持ちを考えていた。
大切に想っているのだと分かった。

あぁ、想い合っているのだ。
死んでも……お互いを……。
胸がギュッと締め付けられ苦しくなった。
敵わない……私なんかでは。
すると沙織さんは、クスッと微笑んだ。

「でも、悪い女だったら絶対に反対していたわ。
だから、あの人が…涼花さんに惹かれていると
気づいたとき嬉しかったの。
この人なら任せられると思っていたから」

「えっ?わ、私がですか!?とんでもないです。
こんなドジで迷惑ばかりやっている私が、
先生に相応しいだなんて」

いくら頑張っても沙織さんのようにはなれない。

「あら、そんな事ないわよ。あなたは、
失敗しても前向きに頑張ってくれているじゃない。
それに睦月を自分の子供ように接してくれてる。
あの子……私に似て勘のいい子だから。
あなたが母親になってくれるってちゃんと
分かってるわ。それだけではない。
あんなに懐いているのは、あなたの人柄だからよ!
真夜だってそう。何度も失敗してもひた向きで
真っ直ぐな涼花さんだからこそ。
真夜は、閉じてた心をまた開こうとする事が出来た。
これからも、支えてあげて。不器用な人だから
喧嘩も多いかもしれないけど……」

真っ直ぐ見て言うところは、睦月君に似ていた。
沙織さん……。
すると微かに声が聞こえてくる。

『小野木。目を覚ませ!!』

先生の……声?

「あら、呼んでいるわ。あの人が……。
そろそろお別れの時間ね。涼花さん。
睦月をよろしくお願いしますね。
これからも息子のように愛してあげて
そして真夜を……あの人の……笑顔を守ってあげて
私の分まで……ずっと……一緒に…」

沙織さん…!?
ハッと目を覚ました。知らない天井が見えた。
ここは……病院?頭が痛いし、何だか重い。
ムクッと起き上がると睦月君が布団にへばりついていた。