「茉莉華……睦月君の方がいい…」
そう言いながら。えぇっ!?
保母さん達も驚いてしまった。
もちろん私も驚いていた。まさかの事態だ。
「茉莉華ちゃん。王子様は、星哉君よ?
睦月君ではなくて…」
「嫌だ。茉莉華…睦月君の方がいい。
睦月君が茉莉華の王子様になって」
目をキラキラしながら言い寄って行く。
睦月君は、茉莉華ちゃんが迫って来るので圧倒されていた。
あぁこれだと、どっちが王子様が分からない。
王子様役の子の印象が完全に薄くなってしまった。
「どうしましよう……先生?」
オロオロしている私と違い先生は、ビデオカメラを
回していた。しかもニヤニヤと笑いながら……。
ちょっと……先生!?
結局。最後は、劇が無茶苦茶になってしまった。
歌は、何とか歌えたのだがこれでいいのだろうか?
何だか不安のままステージ発表が終わった。
そしてお昼になると私と先生は、
睦月君を出迎えることにした。
「睦月君。よく頑張ったねぇ~怪我しなかった?」
心配そうに尋ねると首を横に振るう。
怪我はしていない様子だ。良かった……。
「しかし、なかなか面白い光景だったな。
さて、飯の時間か。手伝いに行かないと…」
ビデオカメラを確認しながら先生は、そう言ってきた。
そうだったわ。もうお昼だし手伝わないといけない。
園児達のお遊戯発表の他にお昼は、
それぞれの園児の保護者が作って振る舞う。
キリン組は、焼きそばを作ることになっていた。
すると向こうの方で怒鳴り声が聞こえてきた。
「茉莉華。何だあの演技は!?
せっかくの劇が無茶苦茶ではないか」
「パパ……ごめんなさい……」
泣きながら謝る茉莉華ちゃん。
茉莉華ちゃんが父親に叱られている所だった。
その横で必死にフォローしようとする茉莉華のママ。