お母さんが若い頃に着ていた浴衣!?
それは、母の思い出が詰まった浴衣だった。
私のサイズに合わせて縫い直してくれると分かり
何だか嬉しかった。

「ありがとう……お祖母ちゃん」

「フフッ……しかし懐かしいわね。お母さんもね。
この浴衣を着て当時付き合っていた彼氏と一緒に
花火大会に行ったのよ。
本人は、覚えているのかしらねぇ~」

「お母さんが!?ねぇねぇどんな人?
お母さんの付き合っていた人って?」

思わず母の恋バナに食いついた。
当時は、どんな男性と付き合っていたのだろうか?
お父さんと違うタイプの人?それとも……。
そんな思い出深い浴衣を娘の私が着ることになるなんて
当時の母は、思わなかっただろうな。

祖母に聞きながら私は、楽しみに思えてきた。
翔馬君との初めての花火大会。
絶対にいい思い出にしたい……そう思った。
しかし花火大会当日は、台風が来てしまい延期に。
残念な気持ちになったが、まだ楽しみを先伸ばしに
なっただけだと翔馬君は、電話で笑っていた。
それに岐阜とかは、まったくではないが災害が少なく
大きな被害になることは、めったにないらしいと
教えてくれた。山が多く地面が固いせいだろうと。
また良さを1つ知ることが出来て良かったと思った。

そして残念だった花火は、日を改めて
開始することになった。
私は、早々と祖母に着付けをしてもらった。

「サイズは、ピッタリのようね。
あら、可愛らしいわねぇ~こうやって見ると
お母さんの若い頃に似ているわね。菜乃ちゃんは」

浴衣を着た私を見て祖母は、母の面影を見て
懐かしそうに言ってきた。私は、母似だ。
母の着ていた浴衣……何だかちょっと不思議で
気恥ずかしさがあった。

お母さんは、どんな気持ちだったのかな?
彼氏と会えるからドキドキしていただろうか。
今の私みたいに……。

そして髪を結ってちょっと軽めのメイクをする。
翔馬君は、これを見てなんて言ってくれるだろうか。
ちょっとでも可愛いと思ってくれたら嬉しいのに
そう思いながら家を出た。
慣れない下駄は、少し歩きにくい。

カランコロンと下駄を鳴らしながら歩くと
柳ケ瀬の商店街を通り抜ける。たまに同じような
浴衣姿の人とすれ違う。それを見ると
花火大会があるんだなぁ~と再認識する。

ショコラで待ち合わせなので行くと翔馬君も
浴衣姿だった。紺の色柄がとてもよく似合う。
幼さが残る翔馬君だが浴衣姿だとちょっと年相応に
見えて余計にドキドキした。
それは、翔馬君も同じだったようで私を見るなり
頬を赤らめ硬直していた。

「翔馬君も浴衣姿なんだね……」