まだ付き合い出したばかりなのに
もう気まずい状況になってしまった。
どんな顔して会えばいいのだろう……。

しょんぼりした気持ちで私は、ショコラの中に入って行く。
するとすでに翔馬君が来ており私にズイッと
1枚のポスターを見せてきた。えっ……?
私は、唖然としながらそのポスターを見る。
えっと……『全国選抜長良川花火大会』?
どうやら花火大会のお知らせのポスターだった。

「翔馬君……これって?」

「行くぞ。花火大会」

えぇっ……?
急に花火大会に行くぞと誘われても
私は、どうしたらいいのか分からずに戸惑った。
これって一緒に見たいってことでいいのだろうか?
するとそれを見ていた美紀子さんは、呆れながらも
クスクスと苦笑いしていた。

「翔馬君……あんた。もう少し上手い誘い方はないの?」

「いいんだよ……これで。俺は、怒っているんだ。
あんな悔しいこと言われて離れ離れになるなんて嫌だ。
俺は、菜乃に岐阜に来て良かったって
また行きたいと思ってもらえるようにしたいんだ。
だからデートを仕切り直すぞ!」

翔馬君……。
彼は、昨日のことを悔しがってくれた。
私に怒るのではなく……私のためにいい思い出を
残そうとしてくれていた。
また岐阜に行きたくなるように……と。

「もちろん……行くよな?菜乃」

「う、うん。行きたい。凄く!」

頬を染めながら言う翔馬君に私は、即答で返事を返した。
翔馬君の気持ちが嬉しかった。花火大会。
打ち上げられる花火は、きっと綺麗だろう。
それを好きな人と見られるなんて夢のようだ。
行きたいと言うと嬉しそうに笑いかけてくれた。
彼は、とても素直だ……。

私も決断をしないといけない。
自分の気持ちに素直になれるかなぁ……。
翔馬君みたいに……。

花火大会のことは、バイトが終わり
自宅に帰ると祖母にも話した。
祖母も喜んでくれて。なら……と押し入れを開けて
何やらゴソゴソと探し始めた。
何を探しているのか分からずに見ていると
1枚の浴衣を出してくれた。
ピンクの柄で花柄の付いた可愛らしい浴衣だった。

「これは、お母さんが若い頃に着ていたモノよ。
ちょっとデザインが古いかもしれないけど
柄も可愛らしいし、縫い直せばまだまだ着れるわ。
菜乃ちゃんのサイズに合うように縫い直そうね」