「悪いな。菜乃。重いのに押させてばかりで」
「大丈夫だよ……これぐらい」
押していると翔馬君が私に謝ってきた。
別に謝らなくてもいいのに……。
私は、平気だと翔馬君に伝えた。
重いと言っても翔馬君は、かなり軽い方だ。
きっと私の方が重いに決まっている……。
「それとエレベーターのは、気にするな。
あんなの慣れているし。
ほら、人って珍しいモノを見るとついジロジロと
見てしまうだろ?あれと一緒だって」
アハハッ……と笑い話のように話す。慣れている……。
私は、それを聞いて胸が締め付けられそうだった。
確かにそうかもしれない。私も同じように遭遇したら
ジロジロと見ていたかもしれない。
それが相手にとって不愉快になっているなんて
思わなかったかもしれないのだ。
そう考えると申し訳ない気持ちになった。
「まぁ、色々と不便だし最初の頃は、慣れなかったけど
接客とかしていろんな客や人物が居るんだなって
知っているからさ。
今は、だから何?と思うぐらいなんだよな」
またアハハッと笑う翔馬君。
きっとたくさん傷ついたけど、あのお店が翔馬君に
いろんなことを教えたんだ。人の見方や優しさを
私がそうだったように……。
そして映画館に着くと私は、車椅子を押しながら
チケットを買うために並んだ。
今は、機械で買うことになっている。
すると翔馬君は、リュックから財布を取り出すと
お金と手帳を私に出してきた。
「菜乃。悪いけど俺の分も買って。
買う時に障がい者割引があるから、それを押すと
俺の分は、半額になるし。付き添いってことにすれば
菜乃の分も同じように割引になるから」
えっ……そうなの?
翔馬君から千円と手帳を受け取った。
その手帳を覗いてみると身体療育手帳と書かれていた。
これは、どうやら障害手帳のようだ。
私達の番になったので販売スタッフの人に
その手帳を見せると
「あ、はい。では……まず」
買い方を詳しく教えてもらった。本当だ!
翔馬君は、半額に。私は、付き添いとして半額になった。
こんな使い方も出来るんだ……?
私は、感心しながらやった。そして無事に買うことが出来た。
席は、翔馬君は、通路側の車椅子用のところで
私は、その前の席にした。
隣同士ではないのが残念だったけど……。