「あ、あの……大丈夫です」
「あ、血が出てるじゃん!!
どこが大丈夫だよ……ったく。
絆創膏なら店にあるからお前も来い。
ついでに手当してやるよ」
「えっ……あ、いいです。
そんな大した怪我ではないし」
顔も知らない私は、そう言ってくれたが
恥ずかしくて慌てて断った。
本当に大した怪我ではないし少し擦りむいているだけだ。
「転んで下を向いている奴が何を言っているんだよ?
ほら、あそこのケーキ屋。
俺の叔父がやっているんだ」
えっ……?
彼が指を指した方向を見ると看板が見えた。
遠くからだと見にくいが……ケーキ屋なんだ?
「ほら、行くぞ。
せっかくだからケーキでも食ってけ
叔父さんの作るケーキは、マジで上手いから」
ニコッと明るい口調で話す彼だった。
笑い方は、幼さを残すがとてもキラキラしていて
思わずドキッと見惚れてしまう。
「あ、悪いけど、ちょっと押してくれる?
さっきコンビニにお使い頼まれてさ」
「あ、はい」
私は、慌てて彼の後ろに回り車椅子を押した。
車椅子を押すのは、初めてなのだが
ズシッと重みがあるもののグッと力を入れると
前に進んでいく。
結構車椅子って重圧がかかるんだ……。
「そういえば。お前……名前は?
俺は、横山翔馬。高2だけど」
「わ、私は、松嶋菜乃です。同じ高2です」
あ、同い年だった。
失礼ながら年下だと思い込んでいた。
口に出さなくて良かったと思いながらも
横山翔馬君って言うんだと思った。