「もともとバスケをやっていて
スポーツマンの子だったから、すっかり
落ち込んじゃって……引きこもりがちになってね。
それを見ていた両親がウチの主人に相談してきて
主人が外の世界をもっと見せた方がいいと言って
その当時に始めたばかりのこのお店を手伝わせたのよ」
「最初は、戸惑っていたけどいろんな人に
出会うことで、いろんな見方を出来るようになってきてね。
私のところは、子供が居ないから今では、
大事な看板息子のようなものだわ」
フフッと笑う美紀子さん。
私は、その言葉を聞いて胸が痛んだ。
明るい翔馬君には、そんな辛い過去があったなんて
思わなかった。事故で引きこもりがちに……。
それは、他人事ではない。私も同じだ。
そっか……翔馬君も。
ジッと彼を見ていたら翔馬君が私に気づいた。
「あれ?菜乃じゃん。
いつの間に来ていたんだ?」
「えっ……あ、ごめんなさい。
つい覗いちゃって……」
驚いて慌てて謝った。
どうしよう……覗いていたのバレちゃった。
急に恥ずかしくなってきた。
「ふーん。客として来たのか?
せっかくならこっちに来いよ。
もっと近くで作り方が見れるぜ?」
「えっ?いいの?
私関係者ではないし……」
「いいって。なぁ?祐一郎叔父さん」
「あぁ、構わないぞ。
そこのシンクで手を洗って消毒してね。
翔馬。エプロンを出してやれ」
「へいへい」
翔馬君の叔父さんに聞くと許可をもらえた。
私は、慌ててシンクで手を洗った。
そして翔馬君が袖のない使い捨てエプロンを
用意してくれたのでそれを付けた。
「これがメレンゲ。
そして今からクリームを絞るところなんだ!」
「そうなんだ……」