「ちょっと忘れただけもん」
「どうだか……」
翔馬君は、まだ笑っている。
あまりにも笑うから恥ずかしくなってきた。
私は、怒って頬を膨らませる。
「もう……笑わないで」
「えっ?全然聞こえなーい」
「翔馬君!!」
からかってくる翔馬君は、まだ笑っていた。
だが嫌ではないのは、その屈託のない
笑顔だからだろう。後で美紀子さんに
「あんたは、小学生のイジメっ子か!」と
ツッコミを入れられていたが……。
その姿に自然と私も笑っていた。
こんなに楽しくて笑ったのは、久しぶりだった。
東京に居た時は、イジメられたきり家でも
笑えなくなっていた。
しかし楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまった。
祖母にも遅くなる前に帰れと言われていたので
そろそろ帰らないといけない。
「あ、あの……。今日は、ありがとうございました。
ご馳走さまです。とても美味しかったです」
出入り口で私は、頭を下げてお礼を伝えた。
翔馬君と美紀子さんは、店の外まで
見送りに来てくれた。
「あら、お礼なんていいのに。
また遊びにいらっしゃい。待っているから」
「気を付けて帰れよ?
またお店に顔を出しに来いよ……菜乃」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言ってくれたことが嬉しかった。
また来てもいいと言われちゃった。
私を受け入れてくれた……。