「……ごめん……菜乃」

そう呟いた翔馬君の目には、涙が溢れていた。
やっと自分の気持ちが出せたのかもしれない。
私は、それを見て余計に涙が溢れてこぼれ落ちた。

村瀬君は、そんな2人を見て呆れてため息を吐くが
苦笑いしていた。
そして私と翔馬君を抱き締めてくれた。

「まったく。お前らは、世話が焼けるな」

「うるせぇ……」

村瀬君君に対してそう言う翔馬君。
こうやって見るとやっぱり村瀬君は、お兄さんみたいだ。
弟が居るから、自然とそうなるのかもしれないが
何だかあたたかい気持ちになった。

それは翔馬君も同じみたいで
自分の気持ちを改めてくれるようになった。
翌日には、学校に行くお店にも立ってくれた。

「昨日は、すみませんでした。
気持ちを改めて一からやり直すつもりで頑張るので
これからもよろしくお願いします」

頭を下げて叔父さん達に謝罪をした。
しかし翔馬君の叔父さんは、難しい顔をしていた。
眉間にシワを寄せてまるで怒っているように。

「翔馬。お前が落ち込む気持ちも分かる。
しかし、やりかけた仕事を途中で放り出すのは、
プロの世界や社会に出たら許されることではない。
お前は、それに対してどう感じているんだ?」

投げられた言葉が厳しいものだった。
確かにお客様が待っているのに途中で投げ出すことは、
失礼にあたるし下手したら信用問題だ。
その言葉に私も翔馬君も痛感する……。

すると翔馬君は、顔を上げて前を向いた。
睨み付けるとかではなく真剣な表情で。

「確かに……。俺は、最低なことをした。
自分でも恥ずかしいと思っているし皆にも……お客にも
悪いと思っている。でも俺は、諦めたくない。
何年経っても例え車椅子だと否定されたとしても俺は、
前を向いて歩いて行きたい。
それが後悔しない生き方だと思っているから」

その言葉は、昨日と違い翔馬君らしくて前向きな言葉だった。
嘘もない真っ直ぐな目で叔父さんを見る。
すると叔父さんは、クスッと笑うと翔馬君に
雑誌を見せてきた。これは?
翔馬君は、不思議に思いその雑誌を見るので
私も気になって一緒に覗き込んだ。

雑誌には、フランス有名なケーキ屋でパティシエを
やっている日本の男性の写真が一緒に載っていた。
年齢も叔父さんぐらいだろうか。
凄い……フランスで有名なケーキ屋だなんて