「実は家老は、恐ろしく腕の立つ男を飼っているのです」
「刺客か?」
こくり、と艶姫が頷く。
「安芸津 新兵衛という方が、藩主の意向を受けて動いております。この方がいろいろ教えてくれるのですが、鳥居 十郎なる男が家老の影にいるそうです。藩主の叔父が家老の座に就いたのも、反対勢力をこの鳥居が葬ってきたからだとか」
「へぇ、そいつぁ……」
ぶる、と武者震いをし、重実は口角を上げた。強い者とは戦ってみたい。剣客の性だ。
「安芸津様も手を尽くしてくださっておりますが、そうこうしているうちに、真之介様の御身が危うくなるかもしれませぬ」
「真之介? ……ああ、あんたのお相手か」
艶姫のことは、藩主の実子であり元々城外にいるため狙いやすかった。商人として育っていたので、供もそうない。実子を消してしまうほうが効果的であるため、真之介よりも艶姫を消すほうが手っ取り早いと踏んだのだろう。
真之介は家中の者がよく知る、勘定方の息子である。艶姫の婿として、ひいては次代の藩主としての地位を引き継ぐことは、今や家臣であれば知っている。そのような者を下手に消せば、誰がやったか一目瞭然の状態だ。
今までの所業もあり、家老に味方は少ない。頂点に立つには細心の注意が必要だ。故に真之介には手を出さなかった。
だが家老はいずれ真之介も亡き者にするはずなのだ。艶姫が討たれてしまっても、藩主がどうしても叔父に跡を継がせたくないのであれば、真之介を養子にすればいい。実子に継がせるという家督相続の前提は守れないが、子がいないのなら仕方ない。
おそらく藩主はそうするだろうから、そうなる前に、家老は真之介をも消すはずだ。己の出世の道を阻む者は、今までのように全て廃するつもりだろう。
「なにとぞ、お願いいたします」
再び、艶姫が頭を下げる。
「うーん、まぁいいか。ここまで知っちまったら、引くに引けねぇ」
がしがしと頭を掻く重実を、狐はため息と共に眺めた。
「刺客か?」
こくり、と艶姫が頷く。
「安芸津 新兵衛という方が、藩主の意向を受けて動いております。この方がいろいろ教えてくれるのですが、鳥居 十郎なる男が家老の影にいるそうです。藩主の叔父が家老の座に就いたのも、反対勢力をこの鳥居が葬ってきたからだとか」
「へぇ、そいつぁ……」
ぶる、と武者震いをし、重実は口角を上げた。強い者とは戦ってみたい。剣客の性だ。
「安芸津様も手を尽くしてくださっておりますが、そうこうしているうちに、真之介様の御身が危うくなるかもしれませぬ」
「真之介? ……ああ、あんたのお相手か」
艶姫のことは、藩主の実子であり元々城外にいるため狙いやすかった。商人として育っていたので、供もそうない。実子を消してしまうほうが効果的であるため、真之介よりも艶姫を消すほうが手っ取り早いと踏んだのだろう。
真之介は家中の者がよく知る、勘定方の息子である。艶姫の婿として、ひいては次代の藩主としての地位を引き継ぐことは、今や家臣であれば知っている。そのような者を下手に消せば、誰がやったか一目瞭然の状態だ。
今までの所業もあり、家老に味方は少ない。頂点に立つには細心の注意が必要だ。故に真之介には手を出さなかった。
だが家老はいずれ真之介も亡き者にするはずなのだ。艶姫が討たれてしまっても、藩主がどうしても叔父に跡を継がせたくないのであれば、真之介を養子にすればいい。実子に継がせるという家督相続の前提は守れないが、子がいないのなら仕方ない。
おそらく藩主はそうするだろうから、そうなる前に、家老は真之介をも消すはずだ。己の出世の道を阻む者は、今までのように全て廃するつもりだろう。
「なにとぞ、お願いいたします」
再び、艶姫が頭を下げる。
「うーん、まぁいいか。ここまで知っちまったら、引くに引けねぇ」
がしがしと頭を掻く重実を、狐はため息と共に眺めた。