(なに……この景色・・・・)

その言葉しか惟子の口からは出てこなかった。
8年前確かに、この場所に来たはずだったが、記憶は薄れ曖昧になっていた。

こんな場所だったのだろうか?
たぶん、今の日本の技術で立てればこのような城が立つのだと思う。
建築自体は教科書で見た江戸時代の城のように見えるが、明かりも灯り、長く続く廊下の横には安全を考慮するように、頑丈な手すりが付いていた。

そして外に目を向ければ、やはり……そんな思いが惟子を支配する。空は西日のような、なんとも言えない色で、人型の鳥や、馬車のようなものまで飛んでいるのが見えた。

(あれ?)

そこであたらめて、今はこの場所が浮いていないことに気づく。
8年前は確か空に浮いていたような記憶があった。
この場所は城の中でもかなり高い場所にあるようで、確かに眼下には町を見下ろすことが出来たがきちんと地面の上にある場所のようだった。

それだけで惟子は少しホッとした。
かなり広い敷地に立っているようだったが、お堀のような場所には小さな橋が架かっており、その先にはオレンジ色の光が灯る店が並んでいるようだった。

微かに聞こえるお囃子のような音が聞こえ、時代劇でも見ている様な気持ちにさえなってきた。

「お絹?」
不意に聞こえた声に私は、びくりとして動きを止めて俯いた。