その日以来、サトリは浄化してほしい日に雨を降らせる。

そして、惟子のそばで料理をこよなく気に入っている。

そこまで思い出したところで、もう一度惟子はサトリに視線を向けた。

(まるで、単身赴任の旦那様よね。契約の)

惟子の中では、確実にこの数年でサトリに対する気持ちは、家族以上のものになっている気がするが、所詮この契約だけの関係だ。
そのことが少し寂しくもあった。

変わらず強い眼光でどこかを見ているサトリに、惟子は不安がよぎる。

「サトリさん、今日はゆっくりできるの?」

「ああ」
心ここにあらずなサトリに、惟子は小さくため息をついて楽しそうにふざけ合うてんたちに視線を向ける。

「てんちゃんたち、まだ食べる?」
初めのころは人間の食べ物など食べるのだろうか?人間と同じ容姿のサトリだけが食べるのではないか。そんな事を思っていた惟子だったが、今ではその心配などよそに、あやかし達は本当によく食べる。

「もちろん食べる!」
嬉しそうに頷くてんに、まわりのあやかし達も嬉しそうにぴょこぴょこと跳ね回る。
「じゃあ、私が初めてサトリさんに会ったときの料理にするね」
懐かしい記憶を思い出したからか、そういった惟子の言葉に、サトリがこちらを向いた。

「惟子、俺の分も頼む。あのじゃがいものおいしかったこと……」
少し頬を緩めたサトリに、惟子は頬を膨らませた。
「サトリさん、さっきは私の話聞いてくれなかったのに。やっぱり、私の料理だけが好きなのね。まったく」
最後の方はぼやくように小声になった惟子だったが、そう言いながらも冷蔵庫の中から食材を取り出す。

一人ぼっちの誕生日だからと言って、あやかしをご飯に招待してしまい、困りに困った惟子が作ったのが、近所からたくさんもらったジャガイモだった。

宗教的な物があやかしにあるのかもわからない。魚介を食べないとか、牛肉がダメとか、サトリは『大概大丈夫だ』そうはいったものの、惟子は結局オーソドックスな物にした。