ドクンドクンと心臓の音が自分の物ではないように感じて、一歩ずつ惟子は後ずさりする。

「怖いのか?これでもこちらの世界に合わせているというのに……」
その言葉に、これは本当の姿ではないことを知る。

「惟子、何も言わず私とおいで。そうすれば悪いようにしない」
たぶん笑ったのだろうが、それは更に怖さを増すだけで、惟子はごくりと唾を飲み込んだ。

「あなたは誰!?」
なんとか声を発した自分をほめたい気持ちで、惟子はその男を睨みつけた。

「さすがだな。あの女の娘……」
何や訳のわからないことをいいつつも、にやりと笑うその男に惟子は言葉を投げつける。
「どこへ行くって言うのよ!?」

「どこ?どこと言えばわかりやすいだろうな……」
少し考えるような仕草をした後、その男はあの(・・)扉を指さす。

「あの向こうの世界」

(おばあちゃん!)
惟子はその言葉の意味が解らないなりにも、結局鍵をもらっていない事、あそこの中に何が入っているか聞かなかったことを、死ぬほど後悔した。

そして、そんな後悔は今更遅いことも、この男たちを前にしてよくわかっていた。

「連れていけ」
その言葉と同時に、後ろに控えていた男たちがいつ移動したかもわからないスピードで惟子を囲み手を抑える。

「いや!やめて!」
そのまま引きずられそうになった時、すごい勢いであの扉が開いた。