私は意外な話に目を丸くした。
真珠といえば、冠婚葬祭どれにでもつけられる、フォーマルな宝石だ。私はまだ持っていないけれど、大人の女性だったら一本は持っておきたい一品だと思うので、需要は高そうなのに。
「真珠って、どうやってできるか知っている?」
驚く私に対し、真斗さんはネックレスの真珠同士を擦り合わせるような仕草をしながら、そう聞いてきた。
「貝の中でできるって聞いたことがありますけど」
「そう。簡単に言うと、真珠貝の体内に『核』って呼ばれる異物を入れて、長い期間をかけて周囲を真珠層で覆わせるんだよ。前に、ミユさんが持ってきたマザーオブパールはこの真珠を作る貝の貝殻ね」
「はい」
「つまり、鉱石じゃないんだよ。主成分がカルシウム──貝殻と同じようなもんだから、他の宝石に比べて汗で劣化しやすい。手入れが行き届いていないとすぐに表面にくもりが出てきてしまうんだ」
「くもり?」
「輝かなくなるってこと」
「なるほど」
婚約指輪によく使われるダイヤモンドなんかは宣伝文句で『永遠の輝き』などと言われるけれど、真珠は扱い方ひとつで簡単に傷んでしまうということなのかな。
話に聞き入る私の前で、真斗さんはネックレスを持ち上げて糸の緩みを確認するような仕草をした。
「儚いからこそ、多くの人がその美しさに惹きつけれるっていうのもあるんだろうな。昔から、王侯貴族はこぞって真珠を身に着けた。例えば、エリザベス1世の肖像画なんかは、真珠を身に着けているものが多数ある。あと有名なのは、マリー・アントワネットとか……」
「へえ……」
「もともとは偶然貝に入り込んだ異物から生成されるものだったから、希少性がものすごく高かったんだ。だけど、明治時代の半ばにさ、日本人が世界で初めて養殖に成功したんだ。当初は偽物騒動があったりしたけれど、後に天然と養殖の品質に差はないって証明されている」
それが、このネックレスの箱に書いてある『ミキモト』の創業者の御木本さんね。と真斗さんは補足した。
「これ、すごくよく手入れされているな。買ったのは結構昔だと思うのに、全然くもりもなく照りも綺麗だし、糸の緩みもないし。多分、使ったらいつもすぐに乾いた布で拭いて、糸替えも定期的にしてきちんと保管していたんだろうね」
真斗さんが感心したように呟く。
そのとき、トントンと足音が近づいてくるのが聞こえた。
「そろそろこっちも終わったかい?」
飯田店長と土屋さんが入り口から顔を覗かせる。
「今見ているのでおしまいです」
私は真斗さんの方を、視線で指さす。そして、目の前に置かれていた空の箱を持ち上げて見せた。
「ああ、それ。懐かしいな」
土屋さんが、箱の向こうに何かを見つめるように目を細める。
「うちの母の一番のお気に入りでね。花嫁道具の一つだったと聞いているよ。今はどうだかわからないけれど、母の時代は結婚すると花嫁道具って言ってね、箪笥やら机やら着物やら、色々なものを持たされたらしくてね」
真珠といえば、冠婚葬祭どれにでもつけられる、フォーマルな宝石だ。私はまだ持っていないけれど、大人の女性だったら一本は持っておきたい一品だと思うので、需要は高そうなのに。
「真珠って、どうやってできるか知っている?」
驚く私に対し、真斗さんはネックレスの真珠同士を擦り合わせるような仕草をしながら、そう聞いてきた。
「貝の中でできるって聞いたことがありますけど」
「そう。簡単に言うと、真珠貝の体内に『核』って呼ばれる異物を入れて、長い期間をかけて周囲を真珠層で覆わせるんだよ。前に、ミユさんが持ってきたマザーオブパールはこの真珠を作る貝の貝殻ね」
「はい」
「つまり、鉱石じゃないんだよ。主成分がカルシウム──貝殻と同じようなもんだから、他の宝石に比べて汗で劣化しやすい。手入れが行き届いていないとすぐに表面にくもりが出てきてしまうんだ」
「くもり?」
「輝かなくなるってこと」
「なるほど」
婚約指輪によく使われるダイヤモンドなんかは宣伝文句で『永遠の輝き』などと言われるけれど、真珠は扱い方ひとつで簡単に傷んでしまうということなのかな。
話に聞き入る私の前で、真斗さんはネックレスを持ち上げて糸の緩みを確認するような仕草をした。
「儚いからこそ、多くの人がその美しさに惹きつけれるっていうのもあるんだろうな。昔から、王侯貴族はこぞって真珠を身に着けた。例えば、エリザベス1世の肖像画なんかは、真珠を身に着けているものが多数ある。あと有名なのは、マリー・アントワネットとか……」
「へえ……」
「もともとは偶然貝に入り込んだ異物から生成されるものだったから、希少性がものすごく高かったんだ。だけど、明治時代の半ばにさ、日本人が世界で初めて養殖に成功したんだ。当初は偽物騒動があったりしたけれど、後に天然と養殖の品質に差はないって証明されている」
それが、このネックレスの箱に書いてある『ミキモト』の創業者の御木本さんね。と真斗さんは補足した。
「これ、すごくよく手入れされているな。買ったのは結構昔だと思うのに、全然くもりもなく照りも綺麗だし、糸の緩みもないし。多分、使ったらいつもすぐに乾いた布で拭いて、糸替えも定期的にしてきちんと保管していたんだろうね」
真斗さんが感心したように呟く。
そのとき、トントンと足音が近づいてくるのが聞こえた。
「そろそろこっちも終わったかい?」
飯田店長と土屋さんが入り口から顔を覗かせる。
「今見ているのでおしまいです」
私は真斗さんの方を、視線で指さす。そして、目の前に置かれていた空の箱を持ち上げて見せた。
「ああ、それ。懐かしいな」
土屋さんが、箱の向こうに何かを見つめるように目を細める。
「うちの母の一番のお気に入りでね。花嫁道具の一つだったと聞いているよ。今はどうだかわからないけれど、母の時代は結婚すると花嫁道具って言ってね、箪笥やら机やら着物やら、色々なものを持たされたらしくてね」