「世も末だわ……」

 どこまでも続く黒い水平線を眺めながら、丹沢花(たんざわはな)は独りごちた。
 東京駅から【こだま】に乗って、わずか四十五分。首都圏からほど近い温泉地【熱海】は今、活気に満ち溢れている。
 日本三大温泉と呼ばれる熱海は長い歴史を持ち、湧き出る良質な源泉の湯量も豊富。
 海、山があり、海産物に恵まれているうえに首都圏からも近いというのは、観光地としては珠玉の条件と言えるだろう。
 しかし、熱海が現在の賑わいを見せるまでの道のりは、決して平坦とは言えなかった。
 バブル崩壊後、ゆるやかに客足が遠のき、廃墟化した大型ホテルや旅館がメディアに取り上げられた時期がある。
 結果として熱海には衰退した温泉地という印象がつき、客足は減少の一途を辿った。
 熱海を、長らく低迷していた日本を代表する温泉地として知る人は少なくないだろう。
 熱海は一度、崖っぷちに立たされた。けれど今、確実にかつての熱気を取り戻しつつあるのだ。