「いよいよ恐竜の卵を使った創作お菓子コンテストも、最後の出品者を迎える事となりました。ラストを飾るのは……セラミックチームとなります。おお! チーム世志乃に勝るとも劣らない、可愛くて素敵なペアですね。おっと、私は決して贔屓している訳じゃないですよ。そんな冷めた目で見ないでくださいね、会場の皆さん」
司会者のよく分からない進行と共に、大波のような拍手が湧き起こった。
すぐ近くにいた森岡世志乃は、【最強?】ライバルの登場に不敵な微笑を浮かべつつも睨み付け、プレッシャーを与えんとする。
「――彼女が噂のセラミックですか。どんなスイーツで挑んでくるのでしょうね?」
プレゼンを終え、すっかり緊張感から解き放たれたフランソワーズが、魅惑的なブラウンの瞳を世志乃に向けてくる。
「極秘情報によると、どのチームとも被っていないアレを出品してくるそうよ」
「ふ~ん。アレね……。誰でも思い付きそうなアレをあえて出すとは意外」
「あんまり舐めて掛らない方が賢明よ。彼女のセンスはプロ並みで、実力は私が認めるほどだから」
壇上には覚悟を決めて堂々とした白衣のセラミックと、愛想を振りまく奈菜ちゃんの姿が。司会者もメガネの奥でにやけて思わず見とれてしまう。
「紹介します。まずはセラミックチーム代表の瀬良美久さん!」
セラミックは、取りあえず来場者に向かって笑顔で小さく手を振り、頭を下げた。
「そしてアシスタント役を務める岡田奈菜さんです。2人共まだ学生さんかな?」
返事をした後だろうか、奈菜ちゃんはライトを鈍く反射させる丸い頭が目に留まった。会場の一番奥側だったが、間違いなく彼女の父親だ。コンテストには無関心を装っていたものの、彼なりに心配だったのだろう、わざわざ様子を見に駆け付けてくれたのだ。
「お父さん……」
奈菜ちゃんは目尻を少し拭うと、セラミックに威勢のいい声で言った。
「お姉さん! パパがここまで見に来ています。今こそ私達のスイーツを世間に知らしめる時です!」
「はは! 奈菜ちゃん、気合いが入ってるなあ。そう言えば弟の公則も応援に来てるはずなのに、何だか影が薄いわね」
厳かな雰囲気のBGMに乗って、2人のスイーツが各審査員の元へと配られる。
あの松上晴人が、珍しく自分達の作品を食い入るように注視し、何やら色々思考を巡らせている様子が垣間見えた。
「よっしゃ! いっちょ、いきましょうか!」
そう言うが早いか、奈菜ちゃんの手を引いたセラミックは、壇上のマイクに向かって元気よくアピールを開始した。
「私達が考えたスイーツは、ズバリそのまま『恐竜カスタードプリン』です。上からホイップクリーム層、トロふわプリン層、固焼きプリン層、そして最後は普通カラメル層なんですが……今回少し冒険して濃縮エスプレッソコーヒー層にて苦みを演出しております」
ガラス容器に入ったプリンは、外側からはっきりと地層のように分かれているのが透けて見えている。そして表面には、恐竜の化石が埋まっているように見せるためのイラストシールが貼られていた。
「上の層から順に召し上がっていっても構いませんし、4層を混ぜて口にしても複雑な味を楽しめますよ」
審査員の席からは早くも『美味しい』との声が、ちらほらと上がってくる。
「ほほう、これは見た目もカワイイし、味も申し分ないですね」
「大人にも子供にも受けるデザインで面白い」
「それにカスタードプリンとしての完成度も高く、甘くて舌がとろけそうです。アクセントのエスプレッソも効いてますよ」
まねやの社長と恐竜牧場の管理者、パティシエ協会の会員からは軒並み好評だ。
真剣な眼差しの松上晴人は、トロトロに溢れプリプリと弾力をも感じさせるプリンの奥深くにまで銀のスプーンを挿入すると、勢いよく抜き去り約0.5秒で舌の上に転がした。
途端に拡がる恐竜の卵が織りなす濃厚なコクと、ミルク感のある優しい甘味、それにエスプレッソコーヒー由来の仄かな苦味。これらがもたらす三味一体の至福とも思える味蕾への神がかり的な刺激に彼が耐え切れず、周囲に気付かれない程度に仰け反ったのをセラミックは見逃さなかった。
いよいよ出るのかコメントが……まさか~この一連のリアクションで予想するに、否定される事はあるまいて。いや、変人でひねくれ者と自他共に認める彼の事である。決して周囲には流されないのが……。