「はい! 本日はお日柄も良く、正に『恐竜の卵を使った創作お菓子コンテスト』に相応しい日となりました。一体どんな珍しくて美味しいお菓子が飛び出してくるのか……本当に今から楽しみで興奮しております。そうそう、司会は私こと、横山が務めさせて頂きます」
“まねや”の若い社員が、軽快にイベント開催の挨拶を述べると、出場者5チームの表情に僅かながら緊張の色が浮かんだ。
「早速ですが、簡単に参加者の紹介をさせて貰います。まずは、お菓子研究家の土肥さんチーム。彼女の創作お菓子は、レシピ紹介サイトでトップクラスの人気を誇っております。次にパティシエ養成学校から生徒代表に選ばれた、宮川と愉快な仲間達チーム。3人とも凄いイケメンですね。そしてカフェチェーン店経営者である渋いベテランの山川氏チーム。更に恐竜狩猟調理師見習いのセラミックチーム。最後にチーム世志乃……彼女は恐竜狩猟調理師専門学校の2年生だそうです。以上、5組の参加となっております」
一般人の入場は許可していないそうである。披露宴にも使われる会場は、こじんまりとはしていたが、内外の新しい物好きを集めて一種、異様な熱気に包まれていた。地元の情報誌の取材陣も多数駆け付けているようだ。
奈菜ちゃんがたまらず、セラミックの袖を引っ張った。
「やだ、お姉さん。いつの間にやら……結構、盛り上がってるじゃないですか!」
「まあ、ここで調理する訳でもないし、気楽にいこう。ほら、くじ引きで発表の順番を決めるみたいよ」
幸か不幸か、セラミックチームは最後のプレゼンとなった。
「う~ん5チームのラストだと、甘い物に舌が飽きて、もう皆お腹一杯になっているかもしれないですね」
「そうね、余程インパクトのあるスイーツでないと……」
まず栄えある1番手となったパティシエ養成学校、生徒代表の作品は『恐竜の卵タルト』だった。
イケメンが自信ありげに紹介するタルトの表面には、ラテアートのように恐竜の姿がチョコで描かれている。
注目の一発目だけに会場では発表の瞬間、歓声が湧き起こり、審査員の方々による試食の評価も上々であった。学生らしく爽やかな3名は、抱き合って肩を叩き、お互いを鼓舞し合ったのだ。
笑顔は崩さないが、時折ジト目になる森岡世志乃とフランソワーズがコメントした。
「悪くはないけど、学生丸出しの荒削りなスイーツね」
「若いセンスと勢いだけで勝てると思ったら大間違いだよ」
次に登場したのはクックックパッドで活躍するお菓子研究家、土肥女史の力作、『恐竜ベビーカステラ』である。
「銅板で型を作るのが大変でしたが、恐竜の卵をイメージした卵形にカステラを焼いてみました。子供達にも大人気です」
主婦らしい発想のお菓子は、表面がこんがりと香ばしく焼き上がっており、何とも言えない甘い匂いを漂わせていた。
セラミックと奈菜ちゃんは、少し小腹が空いてきたようだ。
「懐かしい! 子供の頃、夜店でよく買って食べてたやつだよ~、奈菜ちゃん。手でつまみながら食べられるし、イイよね」
「あのヒプシロフォドンの卵で作ったら、さぞかし美味しいだろうな。やや大きめのサイズだから十分満足しそう」
続いて登場してきたのは意外なお菓子。ロマンスグレーのパティシエにしてショコラティエの山川氏入魂の一品。
「恐竜の卵で作ったバームクーヘンですが、中央にある穴には同じ恐竜の卵白から作ったメレンゲで満たしてみました」
カフェチェーン店経営者が発表したお菓子に、コンテスト参加者は一様に首を傾げた。
主催者まねやの主力商品はバームクーヘンで、このイベントは次期主力スイーツを探るためのコンテストでもあるからだ。
「…………?」
「…………何で」
セラミックも森岡世志乃もベテランらしい綺麗な仕上がりのお菓子にはノーコメントだった。試食後の味に関しては各審査員に絶賛されていたようだが。