「ええっ!? ホントですか?」
セラミックは目を丸くして、中山健一の顔を食い入るように見つめた。
「そうなの。ついに恐竜の養殖が軌道に乗ったの。草食恐竜のヒプシロフォドンはとっても繁殖力が強くて、現代の環境でも比較的簡単に増やす事ができたのよ。滋賀県の恐竜牧場が……養竜場って呼ぶのかな? とにかく大変な努力をして卵の安定供給が可能になったそうよ。ブロイラー恐竜も登場して、もう危険なジュラ期までハンティングしに行かなくてもよくなるかもね」
「違います~!」
「大丈夫よ。恐竜が畜産業で大量飼育されるようになっても、恐竜狩猟調理師は失業したりしないわ。危険な“ジュラアナ長野”にダイブして謎を解き明かす調査・研究の専門家として、恐竜ハンターは必要不可欠の存在だもの」
「だから違いますって! 恐竜デザート対決の話ですよ。そんな話は聞いてませんって!」
JR守山駅の地下に存在する欧風の静謐なカフェにて、学生服姿のセラミックは思わず大きな声を出してしまった。Tシャツにデニムパンツのラフな格好をした中山健一は、特に動じる事もなく同じ調子で続ける。
「ウチのチームの大手スポンサー会社がバームクーヘンに代わる主力商品を模索しているのよ。そこで浮かび上がってきたのが恐竜の卵を使った斬新なお菓子の提案。当然コンペにはセラミックちゃんを推薦しておいたわ」
「本人に相談もなしで、勝手に話を進めないでください!」
「まあ、まあ。もしうまくいったら、全国的な話題となって滋賀県の新たな名物になる可能性大だわ。いずれにせよ、恐竜を使った料理は何をやってもパイオニア扱いで気分いいわね。世界が注目してるし、手付かずのカテゴリーを自由に開拓してゆく快感っていったら、もう……」
「もう、じゃないですよ、もう! 私の都合も少しは考えてくださいよう」
「フフフ……いいの? セラミックちゃん」
中山健一が、不気味な笑顔を投げかけた。受け止めた側は、心なしか寒気がして鳥肌が立つのを感じる。
「実は今回のお菓子対決には、重要な意味があるのよ」
「一体、何なんですか?」
少し仰け反ったセラミックを追い詰めるように、健一君は冷房の涼風を押し退け、ソファの背もたれから前のめりとなった。
「あなた……βチームにいられなくなるかもよ」
「え~!! どういう事ですか?!」
「松上リーダーは、αチームの森岡世志乃さんに今、とっても注目してるのよ」
「あ、あの世志乃さんにですか?……それで?」
「新メンバー編成時にβチームにスカウトしようと思っているんだけど、ウチには似たようなセラミックちゃんが、もういるでしょう?」
「はい……」
「そこで恐竜の卵を使った創作お菓子コンペに両者を参加させて、勝った方をメンバーとして採用しようとしているのよ!」
「そ、そんな!」
「うかうかしてらんないわよ! さあ、頑張って恐竜の卵を使ったスイーツのレシピを今日から考え出すのよ!」
「うわ~! どうしよう! マジでヤバいわ~」
頭を抱えるセラミックを尻目に中山健一は、脚を組み直して『うまくしてやったり』の表情をした。