チームの先頭を担当し、マチェットで草木を薙ぎ払いながら進む恐竜ハンターは、アレクセイ。馴染みのハンターが海外出張のため急遽、リーダーがどこからか引っ張ってきたピンチヒッターだ。
 この服装がベストマッチなんだとデジタルパターン迷彩の戦闘服を着こなす格闘家風の人物。その割に意外と優しい顔立ちの三十路男で、セラミックのような年下の女性にも気遣いを忘れず、さりげなくリードしてくれる。

「松上サン、セラミックはまだ学生なんデスよ。少しは考慮してあげてくだサイ」

「なーに言ってんだか。こちらとしてはタダで同行させてやっているんだ、文句が言える立場じゃないよ。これでも妹の友人として格別の待遇なんだぜ!」

「別に特別扱いしてくださらなくても結構! 私は早く一人前になりたいんです」

 後ろでセラミックの強がりを聞いた若いハンターの真美さんが言った。

「あら、まだ高校生にしては偉いじゃない。私がこの子と同じ歳の頃には、色々と遊び回ってばかりだったわよ」

 真美さんは恐竜ハンター専門学校を卒業したばかりの女性ハンター。体力勝負の世界ゆえ、アレクセイと同じような迷彩服姿だが、自慢の肉体はアスリートのよう。ショートヘアで、何となくバレーボール選手を彷彿とさせる。
 いつも凜とした表情と強気な態度を崩さないが、女性らしさも決して忘れない素敵な女性だ。正にセラミックの理想を体現するような憧れの人でもある。

「君達ね~、何でもいいから僕を困らせず、死なない程度に頑張ってね」

 松上は鼻から溜め息を噴射した後に心を落ち着かせるため、歩くたびに揺れる真美さんのプリプリとしたお尻を目で追ったのだ。
 ガン見しながら松上は考えた……本来チームの誰かが不参加だったりすると安全重視のため、恐竜ハントは即刻中止すべきであると。だが今期に担当する研究のため、どうしてもサンプル恐竜が必要だった。ジュラ紀へのダイブは予約がギッシリと詰まっており、一度チャンスを逃すとなかなか機会が回ってこない事情もある。おまけに煩雑な手続きも必要で、松上が頭を抱えていた時に声を掛けてくれたのが助っ人アレクセイという訳だ。
 彼は恐竜ハンター協会でも顔が知られていない新顔だが、シベリアで熊猟の経験もあるという。頼もしい限りである……彼がいれば百人力だ。

「いつもの通り中生代エレベーター基地から半径1キロ範囲までが狩猟許可地域だ。今回の猟の目的は恐竜界の牛、テノントサウルスを確保する事~。しかも制限時間の2時間以内に」

 リーダーの松上が大声で念を押すように繰り返す。セラミックは真美さんに言う。

「狩猟してもいい区画や頭数も、厳しく管理されているんですね」

「そうよ、自由に制限無く恐竜を狩りまくってたら、その結果世界はどう変わってしまうのか、誰でも予想できるよね。巡り巡って人類誕生にも悪影響を及ぼすかも知れないわ」

 呑気に歩きながら1億年ほど前の風景写真を撮影する松上リーダーが口を挟んだ。

「その結果、歴史の教科書が変わったり、人類を代表する秀才の僕もセラミックも生まれてこないかもしれない。考えれば考えるほど、恐ろしいよね~」