――アロサウルスが断末魔の叫びを残して目と鼻の先にどさりと倒れた時、私は安堵と共に一種の罪悪感にさいなまれる事となった。
 その肉食恐竜は、まだ羽毛が全身にくまなく残っているほどの若い個体で、あばら骨が浮き出るまでに痩せ細っており、ひどく腹を空かせていた事は明白だったのである。
 それでも私は手にしたショットガンのショットシェルに詰められた特注の鉛玉(ペレット)を叩き込まずにはいられなかったのだ。
 奴にとって我々人間は、たまたま出くわした手頃な獲物に過ぎなかった。身長2メートル以下の集団で歩く生物は、二足歩行するオスニエロサウルスのような小型の草食恐竜と思えたに違いない。
 銃のトリガーを引く強い力をもたらせたのは、食われたくないという単純な生物の本能。死の拒絶と生への執着心。そして人類が、いや哺乳類の祖先がネズミほどの大きさだった時代からDNAにすり込まれている、恐竜に対する根源的な恐怖心からだったのかもしれない。


――松上晴人・著【恐竜ハンターという生き方】より抜粋――