教室の外は、麗らかな五月晴れ。春に花を咲かせた桜の木は、代わりに生き生きとした青葉を風に揺らしている。ゴールデンウィーク明けの気怠い空気を吹き飛ばしてしまうような陽気だ。

「美久、今日の放課後、ヒマしてない?」

 教室前の廊下でセラミックは、同級生の佳音に買い物に誘われた。昼休みに隣の教室から、ひょっこり顔を覗かせたのだ。
 肩までの黒髪を艶やかになびかせる彼女は所謂、近所の幼なじみで、セラミックと小学生からの付き合いである。性格は真逆で慎重派、保守的、地味、運動神経ゼロ。なのに彼氏アリという結構したたかな面も持っている。それもそのはず松上佳音は外見だけで言えば学年一の美少女という噂。ちなみに二番はセラミックなので、二人して街を歩いていると田舎町なのに好ましからざる野郎どもからよく声を掛けられるという。

「ごめん、今週末はダイブの日なんだ。色々準備に忙しくてね」

「そういえば、お兄ちゃん……連休明けの土日は恐竜ハントに出かけてくると言ってたような……」

「そう! 正にそれよ! 私は佳音のお兄様に便乗して“ジュラアナ長野”にダイブ予定って訳」

「美久~、よくやるわね。まあ、お兄ちゃんもお兄ちゃんだけど……。好き好んで超危険なジュラ紀に飛び込むなんて気が知れないわ」

「いやいや、私には一人前の恐竜ハンターになって恐竜専門料理店を開くって夢があるからね。今からコネを作っとかないと」

「卒業したら、恐竜ハンター専門学校に入学か……。結構ハードだねぇ」

 それから佳音は最近彼氏とうまくいっていないような話をした。美久を遊びに誘ったのも、親友に色々と愚痴を聞いて貰いたかったのかもしれない。
 何でも進路の事で最近喧嘩したらしい。その話を耳にした時、セラミックはもう高校生活も半分を過ぎちゃったのかと、しみじみ思った。友人の進路か……彼氏彼女で同じ大学に行くって、あまり成功談を聞いた事がないような。

「美久みたいに卒業後に何がしたいとか、何になりたいとか、しっかりとしたビジョンができてる人は羨ましいよ」

「う~ん、そうかな……」

 セラミックは、むしろ何も考えていないというか、好きな料理の道で生きていくために手っ取り早く高額収入が見込める恐竜狩猟調理師を選んだだけだった。食材のルート確保のために自分で恐竜を狩ってこなくてはならないのが極めて特殊過ぎる世界ではあるが。
 恐竜狩猟調理師になるには国家資格がいる。国が実施する国家試験に合格し、免許を取得しなくてはならない。有資格者以外はその業務を行えない業務独占資格でもある。

「まあ、いいや。お兄ちゃんにも、改めて伝えておくよ。じゃあね、美久!」

 佳音はちょっと残念そうにセラミックに別れを告げた。
 そうだ、彼女の兄には大変お世話になっているのだ。少々クセがあって難儀しているが……。
 セラミックは隣の教室に消えていく佳音の背中を、少し申し訳なさそうな表情で見送った。