その時αチームの森岡世志乃が、遠慮がちに手を上げた。

「あの~……おかわりをお願いしても、よろしいでしょうか?」

「あ! 俺も俺も!」

 すかさずリーダーも挙手した。

「任せといて、麺はあと20玉ほどあるし、スープもまだまだ残っているわよ。私は試食でお腹いっぱいだから遠慮なく食べてね!」

 セラミックの言葉を受けて、松上佳音が提案した。

「魚介系の出汁と合わせてWスープにしたらどうかしら? 私こう見えても結構、ラーメンの食べ歩きを彼氏としてんだ」

「ダメだ。誰もが思いつくアイデアだが、味が濁ってしまう。水と恐竜ガラだけで純粋なスープを煮出していくのが正解」

「何よ、ラーメンの専門家じゃあるまいし」

「料理に関しては素人だが、恐竜に対しては一家言ある!」

 肉食系の森岡世志乃は、包み隠さず憧れの松上をリスペクトして見つめる。今なら虹彩にピンクのハートマークが浮かび上がる、例の漫画的誇張表現がピッタリだ。

「さすがは松上さん、恐竜を知り尽くしている感じ。思わず尊敬しちゃいます」

 松野下の方は少々嫉妬したのか、丸椅子をキイキイ鳴らしながら左右に揺する。

「オイオイ、俺の事を差し置いて何なんだよ!? 一応リーダーなんだけど……」

 本日のカウンターは正に会話の花が百花繚乱に咲き乱れ、新規ラーメン店の開業祝いのごとく、いつまでも話が尽きる事なく賑わったのである。
 厨房のセラミックは密かにガッツポーズを決めながら、今までにはない手応えを感じたのである。

「父さん、母さん、本当にありがとう。美久は仲間達とこの調子で頑張っていきますよ」

 頭によぎった密かな感謝と決意は滔々たる独白となり、沸き立つスープの中に溶けてゆくのだった。

 こってりとは対極の、爽やかなフィーリングのまま幕を閉じよう。
 この後、丸2日間スープを煮続けたガス代と寸胴の底にあったプシッタコサウルスの巨大頭蓋骨が、父親を大いに驚かせるのだが、それは後日談のオチという事にて!