いつの間にか3日目の朝が訪れていた。裸宣言は3日間の約束だったので、今日が最終日となる。
 両親――特に父親は娘の根性と、恐竜狩猟調理師になるという夢を認めてくれるのだろうか。巌のごとき固い決意は、全くもって揺るぎない事を身を挺して示したはずである。たった数日間ではあるが、心に深く刻み込ませたと自分では思う。
 家族だからこそ理解して欲しかった。消防士など、危険と隣り合わせの職業は、あまたに存在しているのだ。リスクを十分に認識した上で誇りを持って仕事をこなせば、無謀で無鉄砲なだけの職業選択ではない事を証明できるはずである。

 ……3日目にしてネタが尽きたので、本日はごく普通の生々しいブラとショーツを身に付ける事にした。これが自分にとって、見られると一番恥ずかしい下着だ。勝負パンツでもなく日常的に穿きこなしている地味な類いの一品。近所の量販店に売っているレベル。カジュアルで数回洗濯した感じの、お気に入りっぽい印象。シンプルなデザインで無地の白。そこには緊張感もなにもない。

 悶々とした気持ちで授業をこなした後、あっと言う間に昼休みとなる。いつものように隣のクラスから松上佳音がセラミックの様子を伺いにやって来た。昨日より達観しているような諦観しているような、ある意味腹をくくった覚悟ゆえの落ち着きを見せるセラミックに佳音は安心したようだ。

「よう、今日は大丈夫そうだけど、昨日はずいぶん酷かったよ」

「へ~、何が? って表情の事かな? どんな風に?」

「そうね、まるで何かに怯えているような……毛を刈り取られる前の羊さんみたいだった」

 鋭い洞察力だ、とセラミックは目を見張った。

「別に何でもないよ。今日の夕方、家に来てくれるんだよね?」

「そう、またメールするわ」

 肩の力が抜けた……今は極めて自然体だ。午後の授業も未曾有の集中力で聞くことができた。それにしても松上晴人のお詫びの品というかプレゼントって何だろう? とても気になるセラミックであった。
 
 自転車で寄り道もせずに帰宅すると、いつものように振る舞う。
 あまりに芸がないと思いつつ、下着姿のまま自室のドアをバンッと開けたが、弟の公則はいなかった。少々肩すかしを食らったが、今日はいつもと違う。そう……もうすぐ松上佳音が尋ねて来るのだ。昨日、一昨日と幸いにも来客がなく宅配便の荷物受け取りもなかったが、今日は親友が来る。とうとう佳音にこの状況を告白できずにいたのだが、本当にどうしよう。
 当然ルールを厳守するならば、裸で佳音と会わなくてはならない。この時だけ体裁を気にして服を着る事は、おそらく許されないだろう。弟の公則が目ざとく見付けて報告するかもしれないし、こういったケースも想定した前提で約束した事だ。だからこそ固い決意に意味がある。
 生半可な覚悟ではない事を示すのだ。さすがに対外的にあまりに非常識ではドクターストップならぬマザーストップがかかるだろうが、佳音とセラミックの長い付き合いや関係性を熟知している母親からは問題なしの判定が下るだろう。昔は一緒に風呂に入っていたほどの仲なのである。
 いそいそとリビングに向かい、親友にこの格好の経緯をどう説明するか、ぐるぐると考えを巡らせた。