「美久……さっきは悪かった。頭ごなしに叱りつけたりして。お前の将来について皆で一度ゆっくり話そうじゃないか」

 パンツパパは新聞の経済面からセラミックの方に視線を移動させた。遠近両用眼鏡のレンズが鈍く光を放つ。ショートスウェットパンツママもキッチンから手を拭きながら、いそいそとリビングの方へやってきた。

「お父さんと話し合ったの。美久は美久なりに、社会人になった時の就職先について真剣に考えているって。でもね……」

 セラミックは自分が目指している仕事について両親が懸念している事は、よく分かっているつもりである。当然だろう、むしろ心配してくれない方が不自然だ。恐竜狩猟調理師の危険度は、あらゆる職業の中でもトップクラスなのだから。ましてや先日のディノニクスの件で実際にピンチに陥った直後である。言うまでもなく、家族の間に走った衝撃と動揺は計り知れない。
 弟の公則もばつが悪そうに茶の間に現れ、4人分の珈琲が淹れられたテーブルを見遣った。家族会議は白熱したかに思えたが、カップに飲み残された珈琲が冷め切ってしまう前に呆気ない結末を迎えたのだ。

 父の言葉――。

「……お前の信念はよく分かった。高校卒業後の進路について、応援してやりたい気持ちも正直ある。だが、やはり覚悟が必要だ。お前にも俺も、いや母さんや公則にだって……参ったな、どうしたものか」

「覚悟……」

 セラミックはその言葉を心の中で反芻した。どうすれば覚悟を示せるか、未成年で学生の自分が置かれている立場では、何を言っても青臭い我儘にしか聞こえないのではないか。説得できるだけの理論も根拠もぶっちゃけ持ち合わせてはいない。

「そうだな、美久。今度の試験で学年トップの成績を叩き出せば……いや、何の条件がいいかね、母さん」

「何か絶対にできそうもない事ねぇ~」

 両親の言葉を遮るようにセラミックはすっくと立ち上がり宣言した。

「そんなの無理! 言うほど頭は良くないもん。それより言ったよね『覚悟』と。私の覚悟を分かりやすく見せたげるわ!」

 おもむろに黄色いタンクトップを脱ぎ、短パンを足元にストンと落とすと、足の親指で横にポイ捨てした。

「――美久!」

 家族の目の前でセラミックはピンクのブラとショーツを丸出しにして堂々と腕を組んだ。父親や弟以上の薄着になって「ふんっ」と鼻息を荒げた。

「お前、一体何を考えて! 急に風呂なのか?」

「はしたないわ、いくら家の中でも」

 弟の公則も目を丸くしたまま、姉の大胆な奇行に注視している。

「今日から3日間、家の中ではお父さんと一緒の姿で通すわ! 言っとくけど花も恥じらう乙女が、3日も裸で過ごす事にどれほどの覚悟と勇気が必要なのか、お分かりいただけるかしら! 不器用な私は、こうやってアピールするのよ!」