「歩ちゃんがよかったんだ!」


決して耳にしてはいけない言葉を怜は、はっきり言うと、黙り込むあたしに話を続けた。


「ちゃんと聞いてる?俺は歩ちゃんの方がいい。っていうか歩ちゃんがよかったんだ!」


「えっ?あっ?」


優奈の視線が気になったけれど、怜の話がなかなか聞き取れず、声が漏れないよう受話器を強く耳に押し付けた。


「優奈がいるから気にしてるんだろ。俺は雅也と歩ちゃんが勧めたから付き合っただけだ。優奈は可愛いし、嫌いじゃないけど俺は歩ちゃんが好きだ!」


あまりにもストレートに言葉をぶつけてくる怜に、あたしは戸惑うしかなかった。


~友情をとるか男をとるか~


優奈は親友で切っても切れない大切な人。


でも怜は心に住む好きな人。


隣にいる優奈の視線が気になり、今すぐ返事もできない。


気付かれたら


全てが終わってしまうかもしれないから…


「あはははっ!またまたぁ~怜君ってば」


あたしは優奈の前で、何ごともなく話はまとまったように見せかけ、楽しい話をしているそぶりをした。


なぜなら、ごまかす事しかできない状況だったから。


「ごまかすなよ!初めて会った日、俺が歩ちゃんを何度も見てたのわからなかった?」


「目…あった…」


どこまでも隠し通す為に単語で話し、優奈を気にする。


あきらかなぎこちない会話に優奈は勘付いたのか、首をかしげている。


「見てたんだよ。俺の一目惚れだから」


嬉しさと優奈に対する申し訳なさで手に滲む冷や汗。


カアッとのぼりつめた体を這う血液。


自分の気持ちに素直になりたい。


でもなれない。


なってはいけない。


「えへへっ」


「優奈が隣じゃ気まずいよな。でも嘘じゃないから」


「うん。優奈と変わるね、仲良くだよ…」


必死で言葉を濁し、苛立ちを堪え、優奈へと託した電話。