ホッとしたのもつかの間、だからこそ駿河には迷惑をかけたくないという気持ちがにょきにょきと育ちはじめた。

 それはすごい勢いで私の頭を埋め尽くす。

 ギュッと両手の拳を握りしめると、私は目を閉じた。
 私がいれば、駿河と広太の仲はどんどん悪くなるかもしれない。

 やがていなくなる私にできることは、駿河の笑顔がこれからも続くようにすること。

 全身から温度が一気に失われたように、心が冷静になっていく。
 これ以上、駿河に近寄ってはいけない。
 なにを考えているんだろう、と思いながらも今度は自分意思で口を開く。

「……でも、もうこれ以上は私に構わないでほしいの」

 駿河が短く息を呑むのがわかった。

 止まっていた時間を強引に動かすように、私は教室を急ぎ足で出た。
 一気に階段をおりて靴に履き替えて外へと逃げる。


 ――ザーーーー。


 地面をたたく雨は強さを増し、まるで私を責めているようだった。






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