「あ……あの」

 戸惑ったような声でつぶやく駿河は、一旦そこで言葉を呑みこんだ。
 次に口を開いたとき、駿河はいつも友達に見せているにこやかな笑みを浮かべていた。急にふわりと周りの空気が丸くなったみたい。

 駿河は手にしていた重そうな段ボール箱を教卓のなかに置くと、手をパンパンとたたいた。

「先生に頼まれちゃってさ。去年の宿題を返し忘れてたんだって。一年以上も放置なんて笑えるよな」

 あはは、と笑う声に私はまた視線を落としてしまっていた。さっきお礼を言おうと決めたところなのに、そんな勇気はどこを探しても見つからなかった。

「とりあえずここにしまっておけばいいと思う?」
「…………」
「高丘さんはなにしてたの? あ、電気つけようか?」

 しゃべらない私に一生懸命話をしてくれているのがわかる。

「頭が痛くって……」

 気づけば勝手に口がしゃべっていた。
 ハッとして口を押さえるけれど、出てしまった言葉はもう戻らない。