「んだと!」

 叫ぶ声がしても顔をあげることができない。
 なんでこんなことになるの? やっと少し希望が見いだせたのに、どうして?

 クラスメイトが短く喚声(かんせい)をあげた。ふたりはケンカをはじめてしまったのだろうか。怖くて見ることができない。

「お前……ふざけやがって」

 怒りに震える広太の声に耳をふさぎたくなる。頭が痛い。痛い、痛いよ。
 急に襲ってくる激しい痛みに悲鳴が漏れそうになる。痛さと悔しさで涙があふれてくるのを止められない。

 誰か、助けて……。

「やめなさあい!」

 すぐ近くで叫ぶ声が聞こえた。これは……ひかりの声だ。

「殴っちゃったら前と同じじゃない。いいかげん、大人になりなよ」

 痛む頭とぼやけた視界。見ると、ひかりが広太に詰め寄っているところだった。クラスが水を打ったように静まり返っている。