「間違っても口に入れちゃダメだよん」

 もう一度肩をポンポンと軽くたたいてひかりは自分の席に戻った。
 手のなかにある入浴剤が溶けてしまいそうなほど体の火照りを感じる。

 昼休みが終わるチャイムが鳴り響いても気持ちがフワフワして落ち着かなかった。ひかりの言葉に深い意味はないとわかっていても、口元が(ゆる)んでしまう。

 なんとか五時間目をやり過ごし、休憩時間になるとトイレへ急いだ。
 ハンカチを濡らし頬に当てると気持ちがよかった。
 鏡に映る自分に問いかける。

 友達にさえならなければ、ひかりとは普通に話してもいいのかもしれない。それ以上の関係を求めなければ傷つくこともないだろうし……。

 新たな選択肢が自分から出ていることに驚きながらも、気持ちは前向きになっていた。
 スッキリした気持ちで教室に戻ると、いつもより室内が明るく見えるから不思議。

 席に着こうとしてふと視線を感じた気がした。窓辺へ目をやると、ちょうど駿河と目が合ってしまった。