『おはよう。高丘さんも転入してきたばかりなんだって?』
『俺、下川原駿河。駿河、って呼んでよ』
『俺は浜松市にははじめて住むんだけど、高丘さんもはじめて?』

 にこやかな空気をまとい話しかけてくる彼に、私はなにも答えられないままうつむくだけ。
 きっと話をしてしまったなら、どんどん会話の数が増えてしまう。駿河は明るくて太陽みたいで、暗闇にいる私とは違う。そう、思った。

 このクラスでずっと過ごせる駿河。すぐに転校することになる私。

 考えれば、ふたりの違いばかりが思い浮かび、ひと言も話すことができなかった。

 男子としゃべっている駿河をこっそりと見れば、茶色がかった髪は無造作(むぞうさ)に散らしていて、だけどよく似合っていた。
 身長はそれほど高くはないけれど、意思を感じさせる瞳が印象的で、薄い唇にいつも笑みが浮かんでいる。

 彼の周りにはいつも笑顔があふれていて、なぜか遠い日の花火を連想させた。

「なんで花火なの……?」

 つぶやけばまた頭痛が襲ってくる。
 ズキンと痛むたびにまぶたの裏で黄色や赤色の花が咲いては消える。

 違う。これは過去の映像だ。