もうずいぶん顔も合わせていないお父さん。昔は大好きだったのに、いつからこんなふうになっちゃったのだろう。

 おとぎ話の主人公なら、誰かが助けに来てくれるのに、現実ではひとりで耐えるしかないなんて。

「食べ終わったら、食器洗っておいてね」

 本から目を離さずに言うお母さんに、
「いちいち言わなくてもわかってる」
 出てくる言葉は棘にまみれている。

 クラスでは誰とも話をしない私、家では言いたいことを言う私。
 話をしてもしなくても、結局はモヤモヤした気持ちを抱えてしまっている。

 また痛み出す頭に、今夜もため息が出る。


 五月の連休が終わった五月七日、木曜日。
 予期せぬことが起きた。それは、クラスにまた転入生が来たこと。

下川原駿河(しもかわはらするが)と言います。よろしくお願いします」

 そう言った男子は愛想のよい笑顔を浮かべていた。