「はじめまして、高丘瑞穂です。これから、よろしくお願いいたします」
この言葉を何度口にしたのだろう。
顔をあげると、新しいクラスメイトたちが興味津々な顔で私を見ていた。まるで動物園の檻のなかにいるみたいな気分になってしまう。
高校二年生の四月。今日から新学期という水曜日、私はこの高校に転入してきた。
お父さんの転勤があるたびに引っ越しをしている私。半年に一度の頻度で変わるクラスメイトは、新しい生活がはじまればリセットされてしまう。
前の学校のクラスメイトの顔や名前もすぐにかすれて思い出せなくなるのは毎回のこと。
黒板の前でする『はじめまして』の挨拶も、これで何度目だろう。
何回自己紹介をしても慣れることはなく、今も足が震えてしまっている。
担任の菊川先生が、黒板に私の名前を絵を描くように大きく書く。チョークの音が静まり返る教室に響き渡った。
菊川先生はメタボな中年男性で、パツンパツンのワイシャツが今にもはち切れそう。
斜め下を見て、自分に言い聞かせる。
――誰とも関わりを持たないようにして毎日を過ごす。
くり返す転校のなかで、このルールを自分に課すようになっていた。