「それにお父さんによって救われている人はたくさんいるのよ。あなたもいずれわかるから」

 そう言うとお母さんはソファに戻り、再び本を読み始めてしまうのでムッとしながらも箸を動かす。

 お父さんは血液センターというところで働いているらしい。夜間におこなわれる緊急手術などで必要な血液の手配をしているそうだ。

 たしかに誰かの役には立てていると思うけれど、そのたびに人間関係を打ち切られるこっちの身にもなってほしい。少しは私の環境について心配してくれてもいいのに、と肉じゃがを口いっぱいに頬張った。

 気弱なお父さんと違い、お母さんははっきりとなんでも言ってくる。
 最近は毎晩ビールなんか飲んじゃって、洗った空き缶がシンクにいくつも並んでいるし。
 そりゃあ、お母さんだって引っ越しばかりで大変だとは思う。けれど、まだ学校がないだけマシじゃん。

 お母さんは私の気持ちなんてわからないんだよ。

 ケンカをしたくなくて黙れば、お母さんが本のページをめくる音だけが家のなかでしている。