お母さんの前ではつい言いたいことを言ってしまう私。久しぶりに長い言葉をしゃべっている感覚。

「こんなに住所や学校が変わる子なんて、日本中探しても私くらいなもんだよ。自分がどこから来たか、前はどんな友達がいたかすら思い出せなくなっているんだから」

 実際、過去を振り返らないようにしている癖がついているのか、思い出そうとしても過去の記憶はぼんやり霞むばかり。うつむいてばかりいるから当然かもしれない。

 鼻からため息をこぼしたお母さんが顔をしかめた。どうせ、またこの話かと辟易しているのだろう。

「そんなに思い出したいのなら日記でもつけてみれば?」
「そういうことじゃないってば!」

 ムカッとする私に、お母さんは逃げるように冷蔵庫へ向かった。
 冷えたビールを取り出すと、戻ってくる前にプルトップを開けて飲み始めている。

「何度も言ってるけど、単身赴任という選択肢はうちにはないの。会社の補助が少なすぎるんだもの。だから、家族そろっての引っ越しはどうしようもないことなの」
「……わかってるよ」