「はい」
 二文字をくり返して廊下へ逃げるように急ぐ。そんな私に岡崎先生はもう背を向けて歩き出していた。

 せっかく心配してくれているのに愛想がないことはわかっている。
 それでも、誰かに心を許すことができない。

 もう何年も、これからも。


 帰り道はすでに暗くなっていた。川沿いの道を歩けば、すでに散った桜がはしっこで汚れてまとまっている。
 高校からは徒歩十分程度なので迷うことなく家には帰れる。

 お母さんの希望で、転勤するたびに賃貸(ちんたい)の一軒家に住んでいる私たち。今回もなるべく高校の近くで、小さいけれど、前と似た間取りの二階建ての家を選んでくれたそうだ。

 家の前に着いたら最初にチェックするのは、駐車場にお父さんの車がないかということ。
 今日もそっと駐車場をのぞいてみる。