真っ黒な夜空を彩る大きな丸い花、続いてズンとお腹に響く大きな音に衝撃を受けたのを覚えている。

 夜空に浮かぶあの夏の花火。大切な思い出のはずなのに、いつ誰と行ったのかすら思い出せないのはなぜだろう……。

 ぼんやりと窓の外を見ていると、ひとりの男子が教室に入ってきた。
 ひかりと広太以外の顔や名前はわからない。目を合わせると話をしなくてはいけないし、関係性を築くことになってしまう。
 しばらくすると、その男子も帰ったようだ。

「はあ」

 ひとつため息をつく。もう、帰ろう。窓を閉めて鍵をかけていると、

「おお」

 驚いたような声がした。

 振り返ると、岡崎(おかざき)先生が教室の前のドアから顔をのぞかせていた。
 保健室の担当をしている岡崎先生は、四十代くらいの女性。
 ボブの黒髪に黒縁眼鏡、スリムな体を隠すような大きなサイズの白衣姿がサマになっている。

 ちなみに顔はきれいなのに、なぜか岡崎先生は男性言葉を使う。