誰もいなくなった教室は、昼間の明るさがウソみたいに夕暮れに沈んでいる。
 うしろの窓を開け、そこから景色を眺めるのが私の日課だ。

 見えるのは、校門とその向こうにある住宅地だけ。どこか懐かしい景色は、夕陽が終わるそばから黒いシルエットに変わっていく。
 校庭では野球部らしき部員のかけ声が響いている。
 たまにクラスメイトが残っていることもあるけれど、話をしない私に構う人はおらず、最後はひとりきりになる。

 この時間は、私の頭痛をおさめる鎮痛剤ともいえる。
 高台にあるおかげで、窓からはいつだって心地よい風が吹いていて気持ちがいい。

 学校に残るもうひとつの理由は、家に帰りたくないってこと。お父さんの仕事は夜勤が中心なので、毎晩七時ごろに家を出る。

 こんなに転校ばかりの生活は、ぜんぶお父さんのせい。

 顔を合わせれば文句を言ってしまいそうで、すれ違いで家に帰れるよう、いつしか時間調整をするようになっていた。
 これも、もうずっと前からのこと。

 街灯の少ない町に真っ黒な夜が降りてくる。
 夜はいつだってやさしい。