「希望ちゃん!」


「おはよう、琥珀ちゃん」


 見慣れた少女の正体は、悠希の元彼女である希望ちゃんだった。

 来るとは思っていたが、いざ渦中の人物を目の前にすると嫌でも体が強張り、冷や汗が流れる。

 悠希を見ると、私より数倍驚いた、という表情で固まっていた。

 その様子から、廈織くんは友人である悠希に何も話していないのだろうということが読み取れた。


「さすが廈織くん! 学年のマドンナを連れてくるなんて驚いた! もしかして付き合ってたりするの?」


 聞いたのは七海。

 一瞬驚いた表情になった希望ちゃんは一変、声を上げて笑った。


「あはは! 違うよー、廈織くんはただの友達。今回は琥珀ちゃんも一緒だって聞いたからついてきたの」


「そうなんだー。てっきり廈織くんの彼女かと思っちゃった! 美男美女でお似合いだし」


「ありがとう。七海さん、だっけ? 私は春田希望。よろしくね」


「七海でいいよ! こちらこそ、よろしく」


 二人の握手を見た廈織くんは、


「さてと、それじゃあ次はこの子の紹介をしようかな」


 と言って、背後に隠れている少女を自分の前へ立たせた。


「ほら、ちゃんと挨拶して。今日からお世話になる人たちなんだから」


 とても大切そうに、愛しそうに少女に触れ、見守っているその様に、私は名前も知らないはずの少女の正体を感じ取った。


「分かったから押すのやめてよ……緊張してるんだから」


「ごめん、ごめん」


「もう……コホン。えっと、初めまして。廈織の妹で、久(く)藤(どう)花音(かのん)と言います。皆さんより一つ年下の中学三年生です。人見知りしちゃうかもしれないですが、仲良くしてください。よろしくお願いします!」


 小さな手を腹の前で強く握りながら二息で言い終えた花音ちゃんは、頭をゆっくりと上げ、不安そうに様子を伺う。