* * *
「さて、そろそろ帰ろう。今日はありがとう」
「私の方こそ色々聞いてもらってすっきりした。ありがとう」
カフェを出たのは時計の針が十七時を過ぎた頃だった。
夏の空はこの時間でもまだ明るい。
建物も人も、鮮やかな茜色に染まっている。
夕陽の眩しさに目を細めながら、私は廈織くんと共に駅までの道を歩いていた。
「ねえ、一つ提案なんだけど」
「なに?」
私の言葉に廈織くんは首を傾げた。
「夏休み、海に行かない? みんなで」
「みんなってことは……悠希たちも一緒にってこと?」
「うん。琥珀ちゃんにも友達連れてきてもらうし、大勢で遊びに行こうよ。花音ちゃんも一緒に」
「え、花音も?」
私は考えていた。
花音ちゃんの内向的な性格は兄である廈織くんにも原因があるのだろうと。
彼は妹が心を痛めてしまわないように無意識にツラい現実から花音ちゃんの目を背けさせてきた。
花音ちゃんの変われる機会を奪ってきたのは、紛れもない廈織くんだ。
それは歪んだ愛故のものなのだろうが、これでは花音ちゃんが不憫で仕方ない。
一生を兄の後ろに隠れて終わらせるのは、どうしても私が阻止しなければいけないと思った。