「君にボクの絵の具を分けてあげる。黒い君のキャンバスに一番映える色は白だよ」
満面の笑みでそう答えた彼に、私は心を射抜かれた。
私が欲しかった答えは、そういうものだったのかもしれない。
「どうして私に、そこまでしてくれるの? 今度は私の黒い絵の具が廈織くんのキャンバスを汚してしまうかもしれないよ」
少し意地悪な質問をしてみた。
まっさらなキャンバスを初めて汚すのは誰だって抵抗があるだろう。彼はなんと答えるのだろう。
「ボクたちは共犯者だろう。だったら罪の分まで分かち合えばいい。ボクのキャンバスが君の色で汚れたって、それはボクが君の苦しみを少しでも取り除けた証だろう? それに、ボクは黒が汚れた色だとは思わないね。君の持つキャンバスが最初から黒かったのなら、それを汚すのは白。そういう考え方だってあるんだよ。世の中の常識なんて、ボクは信じない」
彼と話せば話すほど、私は痛感する。
私は、世論に縛られて生きてきたのだと。
もっと思うまま、柔軟に生きてもいいんだ。
「……そうやって今までいろんな女の子をたぶらかしてきたんでしょ。この色男め」
「え? 何か言った?」
「別に、なんでもないよ。ここのケーキ美味しいなって思っただけ」
私は大きな一口で残りのケーキを頬張りながら笑った。
廈織くんがモテるのは、単に顔が整っているだけではないのだと、私は最近知った。
彼は恋心なくしても人を言葉で惹きつける、人間たらしなのだ。
「そうだね。ボクもここの珈琲は気に入っているよ」
そんな彼は血の繋がった妹に恋をしている。
なんて不毛な恋。可哀相な人。