「花音を好きになったことに後悔なんてないよ。そもそも気付いた時にはもう手遅れだった。それにもし、この気持ちを後悔していると思ってしまったら、それはボクの想いを否定してしまうような気がして嫌なんだ」
「どうしてそう言えるの?」
「ボクは自分の意思で花音を好きになったんだ。自分の気持ちには正直にいたい。そう思わない?」
妹への恋心を清々しいまでの笑顔で語る彼の姿を、私は怖いと思った。
悟りを開いているというか、現実を見ていないというか、とにかくそういった類の恐怖。
彼は自分の抱く感情を美しいと思っているように見えた。
「廈織くんって真っ白なのね」
廈織くんは私の言葉の意味が分からなかったようで、眉間に皺を寄せ、難しい顔をした。
「ボクが……白い?」
「うん。例えるなら、まだ何も描かれていない白いキャンバス。廈織くんは白い絵の具を持っているから、汚れたってまた白に戻れるの。そんなイメージ。私のキャンバスは真っ黒だから、羨ましい」
私は自分勝手に悠希へ想いを告げ、別れを告げ、愛したはずの大切な人までも傷つけようとした。
私のキャンバスはもう、色を置く場所などないほどに汚れてしまっているに違いない。
「君は面白いことを言うね。ボクが真っ白なキャンバス、君が真っ黒なキャンバスか……じゃあさ」
俯く私に廈織くんは言った。