「ボクの妹……花音っていうんだけど、あいつは昔から内向的で、いつもボクの後ろに隠れてばかりだった」


 珈琲を啜りながら廈織くんは「ふう」と息を吐いた。


「ふーん。随分と仲がいいのね。もしかしたら、両想いなのかもしれないわよ」


 廈織くんの向かいに座る私は、冗談混じりに笑いながら言った。

 学校から一駅離れたこのカフェを利用するようになったのは、ほんの一か月前から。

 利用目的の九割は、共犯者との談笑。

 私たちは、普段口にすることの出来ない心のモヤモヤを互いに言葉としてぶつけ合った。

 私のからかいの言葉に廈織くんは重い口を開いた。


「そうなったらボクは……ボクはきっと、自分を保てなくなる」


 廈織くんの言葉に私は「しまった」と思った。

 彼にとっての花音ちゃんという妹が一体どんな存在なのか、私は軽く見ていたのかもしれない。

 彼は妹を、「そういう対象」として見ているのだから。


「……ごめん、ちょっと軽く考えてた。廈織くんの秘密を知ったとはいえ、私、まだそういう気持ちまで理解出来てなかったかも」


「ううん、いいんだ。本当は誰にも言うつもりなんかなくて、死ぬまで秘密にしようとしていた気持ちだから。でも、一人で抱え込むのが限界だったから君に話しちゃった。これはボクが勝手に君を巻き込んだ結果なんだから、そんなに気を使わなくていいんだよ」


 遠くを見つめる廈織くんの瞳は愛する彼女をまぶたの裏に思い出しているように見えた。


「ねえ」


「ん?」


「後悔してる?」


「……それは、花音を好きになったこと? それとも、君を共犯者にしたこと? どっちかな」


「どっちもよ」


私は注文していたケーキにフォークをグサリと突き刺しながら言った。