先ほどは言うことを聞いてくれなかった悠ちゃんも、今度はあっさり手を離した。

 そうこうしているうちに本鈴が鳴り、一瞬にして校舎は静まり返る。

 怒っていると思っていた悠ちゃんが振り向き、眉を下げた彼が怒っているのではなく、悲しんでいるのだと知ることが出来た。


「体調、悪いのか?」


「少し、寝不足で……頭も痛いかな」


「何かあるなら話、聞くぞ。お前がそうやって眠れなくなるなんて、いつも決まって何かある時だからな」


「……敵わないなあ、悠ちゃんには」


 悠ちゃんの言葉に私は困ったように笑った。

 内心とても嬉しくて、飛びつきたくなる気持ちを堪えていたのは秘密。

 悠ちゃんはいつもこうして私が困っている時に手を差し伸べてくれる。

 幼い頃から私にとっての悠ちゃんは優しい王子様のような存在だった。


「いいや、悠ちゃんに全部話すね」


 諦めたように笑いながら、私は悠ちゃんに全てを話すことを決め、ようやくたどり着いた保健室の扉を開けた。