*   *   *

 

 悠希は右手を振り上げたまま、急に勢いを増した雷雨を見つめていた。


「雷……さっきまであんなに晴れてたのに」


 呟きながら、俺はいつの間にか暗くなった室内に気が付いた。

 うっすら見える視界を頼りに俺は部屋の電気を点けようとした。

 しかし、電気は点かず、部屋の中は暗いままだ。何度かスイッチを押してみるが、状況は変わらない。

 どうやら先ほどの雷がどこかに落ち、停電してしまったらしい。


「マジかー、停電……俺今日一人なのに」


 薄暗い部屋の隅っこで、何かが震えている。


「おい琥珀、大丈夫か?」


「ムリムリムリ……なんで雷、真っ暗……」


 俺は溜息をつきながらスマホの画面をつける。

 時刻は現在十七時。


「どこかに雷落ちたんだな……琥珀、そんなところにいないで俺の方に来いって」


 恐怖のせいか、俺の声は聞こえないようだ。


「なあ琥珀」


 俺は琥珀の前にしゃがみ込み、優しい声で語りかけた。


「大丈夫、怖くない」


 頭を撫でると、ようやく琥珀の返答を聞くことが出来た。


「悠ちゃん……手、握ってて」


 涙声でそっと差し出された手を俺は握った。

 手の平にすっぽり収まってしまう琥珀の手に、俺は時の流れを感じていた。

 琥珀は、こんなに小さな女の子だったのか。


「琥珀、大丈夫だから、もう泣くな」


「うん……」


 鼻を啜りながら頷く琥珀。

 姿は変わっても、心は昔のまま、お互い何も変わらないままだった。